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東京高等裁判所 平成5年(ネ)3117号 判決 1994年7月19日

控訴人(被告) 株式会社バザレリィ

右代表者代表取締役 田所ゆう美

右訴訟代理人弁護士 内野経一郎

同 仁平志奈子

同 春日秀一郎

同 浦岡由美子

同 中田好泰

被控訴人(原告) 共同ハウジング株式会社

右代表者代表取締役 佐藤修

右訴訟代理人弁護士 浅見東司

同 新井野裕司

主文

一、本件控訴を棄却する。

二、控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一、当事者の求める裁判

一、控訴人

1. 原判決を取り消す。

2. 被控訴人の請求を棄却する。

3. 訴訟費用は、第一、第二審とも、被控訴人の負担とする。

二、被控訴人

主文第一項同旨

第二、事実関係及び争点

事案の概要、争いのない事実、被控訴人の主張、控訴人の主張及び争点は、次のとおり付加、削除するもののほか、原判決の「事実及び理由」中の「二 事実関係」の「1 事案の概要」、「2 争いのない事実」、「3 原告の主張」及び「4 被告の主張」並びに「三 争点」各欄の記載のとおりであるので、これを引用する。

原判決四枚目表六行目の次に、改行して次のとおり加える。

「 本件媒介手数料支払契約締結時点では、本件物件の売買代金が二三億円と定められていたのであり、二三億五〇〇〇万円で売却されることを停止条件としていなかったことは明白である。」

同四枚目裏一行目の次に、改行して次のとおり加える。

「(4) 控訴人主張の判例は、①複数の仲介業者が一個の売買契約関与に予め承諾している場合であって、かつ、②複数の仲介業者がいずれも契約締結に向けて仲介業務を行い、それにより契約が成立した場合に関するものである。ところが、被控訴人は、訴外株式会社プレスト(以下、「プレスト」という。)の関与を予め承諾したことはなかったし、被控訴人とプレストは、それぞれ控訴人から別個の依頼を受けて競合的な関係で本件売買契約に関与していたものであるから①の場合にも該当しないし、また、本件売買契約の成立は被控訴人の仲介業務によって成立したものであるから②の場合にも該当しない。したがって、控訴人指摘の判例は、本件には、適用の余地はない。」

同四枚目裏一〇行目の「ないし、」の次に「しかも、その届出には、控訴人が専任媒介契約を締結していたプレストが作成していた文書が利用されたものであり、」を加え、同行の「被告は」から同末行の「支払っており、」までを削る。

同五枚目表二行目の次に、改行して次のとおり加える。

「(3) 本件売買についての仲介手数料支払契約は、被控訴人の仲介によって本件物件が二三億五〇〇〇万円で売却されることを停止条件としているものであるところ、本件では、右金額での売却はされておらず、停止条件は成就していない。

(4) 一つの売買契約に複数の宅建業者が関与した場合に一方の当事者が支払う報酬の総額は、建設省の告示額を超えることはできず、その告示額を超える約定は無効である(最判昭和四五年二月二六日民集二四巻二号八九頁参照)ところ、本件売買の代金は二二億七〇〇〇万円であるから、媒介報酬の限度額は六八一六万円となる。ところが、控訴人は、本件売買契約の締結に伴い、既にプレストに六六〇〇万円を支払っているから、控訴人とプレストとの間に専任媒介契約が締結されていることを知っていた被控訴人は、二一六万円以上の媒介報酬の請求をすることはできない。」

第三、当裁判所の判断

当裁判所の判断の理由は、次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決の「事実及び理由」中の「四 当裁判所の判断」欄の記載のとおりであるから、これを引用する。

原判決五枚目裏四行目の「甲第八号証、」を「甲第六号証、第八号証、」に、五行目の「第六号証、」を「第六ないし九号証、」にそれぞれ改め、同行目の「第一一号証、」の次に「第一二号証の一、二、」を、「証人武田英二」の前に「原審における」を、同行の「各証言」の次に「、当審における証人小坂仁の証言」をそれぞれ加える。

同五枚目裏末行の「代表取締役田信隆」を「代表取締役田所信隆」に改め、同六枚目表六行目の次に、改行して次のとおり加える。

「(2) 控訴人は、平成三年一月頃、プレストから三億円の融資を受けた際、プレストとの間で、本件物件につき専任媒介契約を締結し、その契約は、その後三ケ月毎に更新されていた。仲介業者であるプレストは、買付希望者を現地に案内したり、国土法の届出をしたりしており、平成三年五月頃も、ある程度見込みのある買付希望者(フジ企画とは別の者)が現れており、そことの調整を図っている段階にあった。

しかし、まだ成約に至っていなかったので、資金繰に窮していた控訴人は、その買付希望者の提示している買受代金二三億円以上の買受人が現れれば本件物件を売却することの方が利益になると考え、宮永への売却を考慮するに至った。支払に負われていた控訴人が早期の売買契約締結を希望していたため、被控訴人は、フジ企画の代理人として国土法の届出をするに際し、プレストから過去に同社が国土法の届出の際に使用した図面等の交付を受けて、それを添付して届出を行った。また、被控訴人は、媒介手数料支払約定書(甲五号証)を作成したものの、宅地建物取引業法三五条一項所定の重要事項説明書の作成及び交付してする説明は行わなかった。

被控訴人の担当者武田英二も、平成三年五月末頃には、本件物件につきプレストが専任媒介契約を締結していることを承知していたが、控訴人の代表者田所が、プレストへの支払をまけて貰った部分である売買代金の二パーセントに当たる四六〇〇万円を支払うことを約したため、本件物件の売買の媒介を行った。」

同六枚目表七行目の「(2)」を「(3)」に改める。

同六枚目裏五行目「同月」を「同年七月」に改める。

同七枚目表五行目の次に、改行して次のとおり加える。

「(4) フジ企画は、本件売買代金のうち、手付金、中間金の支払はしたものの、残代金の弁済期限である平成三年九月三〇日に残代金の支払をすることができず、数回の弁済の猶予を得たが、平成五年三月一五日に至っても支払うことができなかった。

ところで、本件物件には、住友銀行を根抵当権者とする極度額一六億円の根抵当権が設定されているが、その設定登記(昭和六〇年一月三〇日根抵当権者を第一勧業銀行、極度額を二億二五〇〇万円として登記され、その後の極度額の変更、権利の移転等により、平成元年一二月一八日には右のとおりの権利関係にあった。)を抹消しないまま、平成三年一〇月一五日売買を原因として、同月一八日フジ企画へ所有権移転登記がなされた。その後、フジ企画は、訴外株式会社丸菱のために賃借権設定登記を、訴外株式会社一双のために抵当権設定登記をした。

しかし、フジ企画が残代金一二億六三〇〇万円(この金額は、平成三年七月末当時の控訴人の住友銀行に対する債務元本に相当する。)及び住友銀行に対する利息・損害金の支払をしないため、控訴人は、フジ企画に対し、平成五年三月一八日到達した書面で、売買契約の解除の意思表示をするとともに、所有権登記名義の回復と、フジ企画を債務者又は設定者とするとする負担登記の抹消を求めた。

(5) 控訴人は、平成四年四月二二日頃、プレストに仲介手数料として三〇〇〇万円を支払い、また、平成三年八月三〇日頃、アセット・ジャパン社に仲介手数料名下に三六〇〇万円を支払った。また、訴外甲南不動産株式会社は、フジ企画に仲介手数料の支払請求の訴えを提起し、平成四年一〇月一四日、裁判上の和解により二〇〇〇万円を割賦により支払を受けることとなった。」

同七枚目裏七行目から同八枚目表七行目までを次のとおり改める。

「4(1) 控訴人は、仲介手数料を四六〇〇万円と定めたのは、本件物件が二三億五〇〇〇万円で売却できることを停止条件としていたところ、本件物件の売買価格は二二億七〇〇〇万円であったから、停止条件が不成就となったから、仲介手数料債権は発生しない旨主張する。

しかし、本件仲介手数料支払契約が停止条件付であったことを認めるに足りる証拠はなく、かえって、前記認定のとおり、本件物件の売買価格が二三億円であるとして平成三年五月三一日仲介手数料支払約定が定められたところ、本件物件について正式に契約が成立した同年七月三一日の売買代金は二二億七〇〇〇万円であったが、これは控訴人がフジ企画から没収した預託金五〇〇〇万円から金利相当分が二〇〇〇万円を控除すると二三億円となっているのであるから、控訴人のこの点の主張は理由がない。

(2) 控訴人は、被控訴人が国土法の届出手続以外の仲介業務をしていないことや、本件売買契約が解除されていることを理由に仲介手数料の減額を主張している。しかし、被控訴人が国土法の届出手続以外にも、本件売買契約の締結に向けて精力的に仲介斡旋活動をしたことは前記認定のとおりであり、他に特段の事情の認められない本件では、仲介手数料を減額する事由とすることができない。

また、本件売買契約についてフジ企画の債務不履行を原因として解除の意思表示がなされているが、売買契約が成立した以上、仲介業務の瑕疵により契約が解除された場合は別として、契約当事者の債務不履行を原因として契約が解除されたとしても、一旦発生した仲介手数料支払請求権が消滅し、又はそれが減額されるべきいわれはないというべきである。

(3) 控訴人は、被控訴人がプレストとの専任媒介契約の存在を知りながら介在してきたものであり、控訴人がプレストに対し既に仲介手数料六六〇〇万円を支払っているから、総額で建設省告示の金額である六八一六万円を超えることとなる二一六万円以上の請求権を容認することは許されない旨主張しており、宅地建物取引業法四六条一、二項には、宅地建物取引業者は、建設省の告示額を超える報酬を受け取ってはならない旨定めていることは控訴人主張のとおりである。

しかし、前記認定のとおり、本件では、被控訴人は、プレストと協力してフジ企画との間の仲介業務を行ったものではなく、プレストとは別に仲介手数料を支払う旨約したうえ、自ら単独で控訴人のためフジ企画との間の仲介業を行い(プレストは別の買付希望者との間の仲介業務を行っていた。)、それによりフジ企画との売買契約が成立するまでに至っていたところ、控訴人がこれを妨げたものであるから、被控訴人の仲介手数料の金額は、プレストの受け取る金額に左右されることなく、独自に建設省の告示額を超えるか否かを判断すべきところ、被控訴人の仲介報酬額四六〇〇万円が建設省の告示額の範囲内にあることは計算上明らかであるから、控訴人のこの点の主張も理由がない。控訴人の主張する判例は、本件には適切ではない。

なお、控訴人は、プレストに対し、仲介手数料として六六〇〇万円を支払った旨主張しているが、アセット・ジャパン宛の仲介手数料支払名下の三六〇〇万円がプレストに対する支払であったことを認めることができる証拠はない。」

第四、結論

以上のとおり、被控訴人の控訴人に対する請求を認容した原判決は妥当であるとして是認することができるから、本件控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 越山安久 裁判官 田中康久 高橋勝男)

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